群体知能

一個体のささやかな主張

ゲーム実況に編集は必要なのか。

 先日、YouTubeで「大乱闘スマッシュブラザーズ」というゲームの動画を見た。大乱闘スマッシュブラザーズ、略して「スマブラ」は、任天堂より発売された対戦アクションゲームである。

 スマブラのプロが、インターネットを通じた対戦をしながらおしゃべりする、という内容で、いわゆる「ゲーム実況」と呼ばれる形式の動画だ。スマブラの上手なプレイを見たくて再生したのだが、僕は動画の視聴を途中でやめてしまった。

 「なんか見づらい」。それがリタイアの理由だった。非常に感覚的な理由だが、その見づらさには必ず原因があるはずだと思った。

 今回はその動画の見づらさの要因を探るなかで、YouTube上のゲーム実況における編集の在り方にも言及したい。

YouTuber的編集とゲーム実況

 編集を施されたゲーム実況の動画は、ニコニコ動画でゲーム実況が盛況を見せていた時代から当たり前に存在した。しかし、多くのゲーム実況者がYouTube上に活動拠点を移し、YouTubeでゲーム実況動画が多くの人に見られるようになった現在、かつてニコニコ動画では存在しなかったゲーム実況動画の編集スタイルが生まれた。YouTuberの動画編集スタイルが、ゲーム実況動画の編集形式に持ち込まれたのだ。

 YouTuberの用いる編集スタイルとは何か。「ヒカキン」や「はじめしゃちょー」などの動画を見ると分かるのだが、動画の間延びを生まないような非常に細かいカット編集や、大量の字幕やテロップ、頻繁に挿入される効果音などが代表的な例として挙げられる。

 ヒカキンにしろはじめしゃちょーにしろ、カメラの前に立つYouTuberは喋りのプロではなく、いわゆる素人だ。一般人がカメラを前に、一人きりで誰かのリアクションもない状態であれこれ話したとしても、それを視聴に耐えうる動画にすることはとても難しい。YouTuber的な編集は、喋りに発生する変な間や、視覚・聴覚で得られる情報の寂しさなどを解消するためのものだ。BGMや効果音の挿入により、動画全体のテンポを生み出すことも挙げられるだろう。

 一方のゲーム実況は、ゲームをプレイしながらリアクションをしたり、ツコッミを入れたり、攻略方法を考えたりする。ゲーム画面に向かってひたすらしゃべり続けなければいけないのだ。

 ゲームを遊びながら内容のあるトークをする。これらを同時に行うのは至難の技である。これもまた、視聴者が見て楽しいと思える動画を作るには熟練したスキルが不可欠だ。

 ゲーム実況にありがちなのは、ゲームのプレイで手いっぱいになり、喋りが疎かになってしまうこと。この配信者が黙ってしまっている時間を埋めるために、カットや鳴り物を多用するYouTuber的編集は有効のように思える。

 ヒカキンは、メインチャンネルとは別にゲーム配信専門のチャンネルを開設しており、そこにアップされているゲーム動画にも、彼のメインチャンネルの動画と同じようにYouTuber的な編集がばっちりなされている。

カメラに向かって喋ること、ゲーム画面に向かって喋ることの差

 僕が「見づらい」と感じた動画は、配信者がスマブラの生放送を行ったものを10分ほどの尺で切り出し、編集を加えた動画だ。配信者が話す言葉に字幕がつけられ、字幕と同時にそれを強調するための効果音も挿入される。また、生放送時に視聴者がしたコメントや、配信者とのネタのやりとりを理解するため、補足のテロップや画像も盛り込まれていた。字幕には、さまざまな色、字体が使用されていて、賑やかだった。

 というか、賑やか過ぎた。画面上の情報、耳に入る情報が過剰だったのだ。

 そもそも、YouTuber的な編集は、「素人がカメラ越しに一人きりで話す」という素材を加工するための手法だ。彼らが編集しなければいけない元の映像はTV番組のそれとは違って、複数のカメラによるさまざまな視点からの映像で生まれる絵的なメリハリや、演者やスタッフ、観覧席のお客さんの笑い声やリアクションはない。元の素材に含まれている視覚的・聴覚的情報は、その総量や起伏が圧倒的に乏しいのだ。

 そこに音やテロップをたくさんつけて、映像も加工して、目に入る情報を足す。BGM、カット編集の多用で起伏を生み出す。無味の素材に大量の添加物を投入して動画を成立させることがYouTuber的編集である。

 しかし、一方のゲーム実況には、作りこまれた映像、魅力的なBGM、操作の手ごたえを増す効果音やエフェクトがある。また、ストーリー進行、戦略をぶつけ合う対戦など、ゲームそれ自体が動画の展開を生むものである。ゲームというものは、それ単体で既に成立しているものなのだ。

 ゲーム実況では、そこに肉声を乗せる。生の人間の反応というのは、もともとゲームに備わっているものではない。が、YouTuber的編集によって足される音や字幕(文字)といった情報は、元からゲームが持っているものだ。過剰に付け足してしまうと、動画に含まれる情報が複雑で多すぎる。情報過多である。

 また、編集が与える影響は、扱うゲームによる差も大きいと感じた。例えばヒカキンが扱うタイトルは、「フォートナイト」や「マインクラフト」など、BGMや効果音が常に鳴り続けているわけではない。逆にスマブラは、対戦が盛り上がるBGM、打撃音が賑やかで、絵的にも技のエフェクトやキャラクターを追いかけるために頻繁に寄ったり引いたりするカメラワークなど、常に情報が映像に溢れている。

ゲーム実況に求められる編集

 ゲーム実況動画にYouTuber的な編集方法を上手く適用させている動画も多い。

 字幕に使用する色や字体は絞る。字幕と効果音の同時挿入は避ける。動画の展開を補足するテロップは、効果音と同時に挿入し目立たせる。肉声に効果音を被せる時は、効果音の音量を下げるなど。お笑いコンビ「霜降り明星」のYouTubeチャンネル「しもふりチューブ」で度々アップされているゲーム実況は、編集にこれらの工夫がみられた。

YouTube的な動画のスタイルを崩さず、見やすいゲーム実況として構成された例の一つだと思う。

 しかし、ヒカキンにしろスマブラにしろ霜降り明星にしろ、視聴者がゲームを目的に見に来ているのか、それともゲームをプレイしている演者を見に来ているのか、「演者」と「ゲーム」のそれぞれの見栄え、そのどちらをより重視するか、パワーバランスによって採用するべき編集の方向性は変わってくる点も、ゲーム実況の編集を考える上で避けては通れない問題だ。

 ヒカキンの動画がターゲットにしている年齢層は、彼の活動や扱うゲームタイトルを加味しても明らかに低い。彼の編集スタイルは若い世代に向けたものだ。

 僕が「見づらい」と最初に言ったスマブラの動画も、配信者はまだ10代だ。視聴者層も同じく10代の中高生がメインであり、20代前半の僕が単純に動画の編集について行けてないだけ、という可能性も十分あり得る。

 最後に、今回この記事を書くきっかけとなったスマブラのプロ「ザクレイ」の動画と、しもふりチューブのゲーム実況動画のURLを紹介して終わりにする。みなさんは、どのようなゲーム実況動画を見たいですか?

 

youtu.be

youtu.be