群体知能

一個体のささやかな主張

もこうのポケモン実況の面白さはどこから来るのか。

 YouTubeポケモンの対戦動画を配信するゲーム実況者もこう。ポケットモンスターソード・シールド発売から活動の勢いを増し、2020年5月にはYouTubeのチャンネル登録者数が100万人を突破した。

 かつてニコニコ動画でも、同じくポケモンの対戦動画で一躍有名になった彼が今、再び精力的にポケモンの実況を行っている。今回は、彼のポケモン対戦動画の魅力を紐解いていく。

わかりやすく、魅力的なコンセプト

 もこうのポケモン対戦動画には、ニコニコ動画の時代から一貫しているコンセプトがある。対戦で誰もが使う強いポケモンではなく、対人戦ではあまりスポットが当てられないようなポケモン(いわゆるマイナーポケモンを主軸に据えて戦うのが彼のスタイルだ。

 強力な相手を、自分なりの工夫を凝らして打ち倒す様は少年マンガ的展開で、見ていてワクワクするし、スカッとした快感を味わえる。このわかりやすく魅力的なコンセプトが、彼のポケモン実況における大きな柱だ。

 彼のこのスタイルは、YouTubeというメディアにおける動画の質にも相乗効果を発揮している。

 YouTubeのゲーム実況動画はニコニコ動画とは異なり、Part○○と番号を振られたシリーズ形式の動画を継続して視聴するのではなく、その時視聴している動画の関連動画を、動画の題名とサムネイルを見て面白そうなものを選び視聴するような、より単発的に動画を選んで見る傾向にある。

 その傾向を顕著に表す例として、ある実況者があるゲームの実況動画数十本の内、その同一ゲームタイトルの動画の中一本だけ、異様な再生数を取る動画の存在がある。

 かつてニコニコ動画では、多少のばらつきがあったとしても、1つの動画シリーズの内、一番再生回数を取るのはPart1の動画だった。平均視聴回数が10万回くらいの10本のシリーズの内、Part6だけが100万再生を超えるみたいなことはあり得ない現象だった。

 つまり、YouTubeでは動画1つ1つに明確なコンセプト(視聴者の興味を引く内容)が必要とされるようになったのだ。

明確なコンセプトが生み出す動画の構造

 もこうのポケモン対戦動画の構成は以下の通りだ。

 まず、冒頭に今回フューチャーするポケモンの紹介。そのポケモンの対戦環境下における境遇や、今回取る戦術、能力値の調整、仮想敵、他のポケモンとの連携など、さまざまな説明をグッと凝縮し、テンポよく説明していく。

 これにより、なぜ今回そのポケモンを使うのか、どのように活躍させるのかが明確に提示される。動画の見どころは何なのか、何を基準にして楽しめばいいのか、視聴者が理解した上で対戦を見ることが出来るのだ。

 次に対戦相手とポケモンを見せ合い、3匹の戦うポケモンを選出する場面。ここでも、対戦相手のポケモンをざっくり分析しつつ、ある程度の選出理由を添えてくれる。

 そして対戦時。もこうは戦いの中で生まれる喜びや怒りといった感情をストレートに表現する。時には(いつも)暴言も厭わない。同時に、彼が対戦中に行う相手との駆け引きや、なぜその技を選択したのかなど、彼の思考も言葉にして説明してくれるポケモン対戦における前提知識や補足情報も、字幕できっちり補完する。

 対戦中の思考をしっかり言葉にして実況をすることは当然難しい。しかしもこうは、こと対戦実況において抜群の実況力を持っている。これに関しては、ポケモン剣盾の初期の動画と現在のものを見比べてほしいのだが、剣盾の実況開始以来、この言語化力がどんどん伸びていることが実感できるはずだ。

 視聴者は、勝負の駆け引きを実況者と共有し、その成功や失敗も、もこうの豊かな感情表現を通じて一緒になって喜んだり悔しがったりできる。

 ポケモン対戦を自分ではせずに、動画だけで楽しむような人でも、その動画における主役のポケモンが環境に対してどのような力を発揮するのかを説明してくれるので、対戦における事前知識がなくても、ポケモン対戦を楽しむことができる。

 もこうのポケモン対戦動画は、動画の楽しみ方をしっかり提示している点が、YouTubeのゲーム実況として優れた点だろう。

まとめ

 もこうが再びポケモン実況で輝きを取り戻したのは、彼が元々持っていた性質、動画の質、YouTubeでの動画の視聴のされ方など、さまざまな要因が絡み合ってのことだ。

 しかし、動画のテンポを重視した喋りや細かなカット編集、読み合いに必要な細かな知識を補完する字幕の挿入など、動画づくりへの惜しみない努力があるからこその結果だろう。彼のポケモン対戦を、今後も心待ちにしている。