群体知能

一個体のささやかな主張

服を買いに行くための服がないぼく

ファッションて何なんだ

大学1年生春。はじめての1人暮らし。

今までは親から買い与えられた服をなんとなく着ていたぼくは、1つの大きな問題に直面した。

ファッションがわからん。

もうまったくわからん。今自分が着ているシャツの種類さえ知らん。当時、かろうじて知っていたファッション関連の単語は「チノパン」だけみたいな、そんな感じ。

まっ黒の学生服を年中着ていた田舎者にとって、毎朝服を選ぶことは、講義なんかよりよっぽど大変だった。

それでもなんやかんやと日々を過ごし、大学生活が始まって2か月がたった頃。毎朝服を選んでいたぼくは、ある事実に気づく。

服がない。

いやないことはないのだが、大学入学時にテキトーに買った服と、高校の時から愛用していたおかんセレクションしかないのだ。変な柄のYシャツに、室内ではもう汗がにじむモコモコのパーカー、土色のチノパンと細すぎる黒スキニーが1軍だった。

こいつらを毎朝鏡の前でとっかえひっかえしたところで、(今日のおれはイケてる)とか思える瞬間はひとつもなかったのだ。

「もう夏だし、そろそろ服買いに行かないとなあ」

無残な1軍の横で季節の変わり目を感じながら、そんなことを考えていた。